旅打ちの空に薄陽差す

「旅打ち」というと、旅をしながらマージャン、競馬、パチンコといったギャンブルをすることを意味するようだが、私の場合はやはりゴルフ。そして賭けゴルフではなく、我が家の女帝の精神的安定を図るための定期ツアーである。

冬季の旅打ちとなった今回は、当然のことながら南に向かう。選んだ場所は長崎だった。しかし機上の人となって気が付いたことは、九州といっても長崎は東京からほとんど平行移動になるということ。要するに南ではなく、単に西に移動しているだけなのである。そう思い当たったとき、女帝はおもむろに口を開いた。

-ゴルフ旅行にいくと、いつも天気悪いよね。2月の宮崎はやっぱり冬で寒かったし、夏の福島は霧で見えなかったし、北海道は毎日雨。グアムも風ぴゅうぴゅうで、雨も降ったよね。今度は大丈夫でしょうねっ、ねっ。
最後に念を押されて、私は言葉に詰まった。

-まあ、冬だからさ、暑くはないんじゃない。でも晴れればゴルフ場って比較的暖かいじゃん。陽がもろにあたるから...

-そうかな~~。また、寒いとやだな~~。
私は天気のことより、女帝の機嫌が悪くなることのほうがもっといやだった。

宿はハウステンボスのホテルを予約していた。昼間に一仕事済ませてから飛行機に乗ったため、現地に到着したのは夜だった。正月休みが終わったハウステンボスは閑散として、きらびやかにライトアップされた園内を歩くのは私たちだけだった。

そして案の定、寒かった。それでも女帝は
-きれい~~、さいこ~~、ハッピ~~
を連呼し、寒さより園内の飾りつけに眼をうばわれていた。(ハウステンボスさん、ありがとう)私は、心の中でつぶやいた。

その晩はさらに、ディナーの途中で花火も打ち上げられ、さながら長崎のその異空間を独り占めした気分となり、女帝は天にも昇る心地で床についてくれた。そして私はもちろん、部屋の温度をそっと上げておくことも忘れなかった。

しかしその平安を、翌朝の曇り空が一気に吹き飛ばしてくれた。

-あ~~っ、また天気悪ぃーじゃん。
ハウステンボス・ゴルフコースの1番ホールに立ったときは、今にも雨か雪が降り出そうかという空模様だった。おまけに目の前には、細長いフェアウェーに両サイドがOBという、さらなる試練が待ち受けていた。頭脳派の私はかなり小高くなっている左のラフを狙い、壁のようになっている山すそに当てて転がし、フェアウェーに戻すという作戦を立てた。

ところが、ストレートに打ち出されたボールは山すそに当たるとカーンと乾いた音を立て、こちらに戻るどころかそのまま小山を超え、勢いよく白杭のかたなに消えた。

-冬は草が枯れて、下も固いからね。
私は冷静に、しかし女帝の耳にしっかり届くように、重低音でいいわけした。
結局その日は二人とも、ミズラブルなゴルフ・デーとなった。寒い、とにかく寒い。

-九州はあったかいって言ったよね~~。うそつき。
私は、その後もOBを連発し、女帝からは責められ続けた。

翌日も同じゴルフ場を予約していた。女帝は雪だるまのように着込んで登場した。とてもスイングなどできるはずはない装備だが、頭脳派の私はあえてそこには触れない。ところが、神の思し召しか先祖の助けか、はたまた我が守護霊の秘力か、薄日が差してきたのである。

ゴルフコースとは不思議なもので、天候によって大きくその表情も変わる。昨日あれほど狭く見えた1番ホールが、きょうは広々と見えるではないか。私は思わず声を上げた。

-いや~、天気でこうも変わるもんかな~
と、振り向いた先には、陽を浴びながらも変わることのない雪だるまの三次元立体構造が、その威風を保ち続けていた。

廣川亜太郎(ひろかわ あたろう)
医療ジャーナリスト 1951年生まれ 横浜在住
全米生活25年、その間にゴルフ場支配人を経験、30代後半に北カルフォニア公認ハンデキャップ6
現在はハンディキャップ14。「スコアは、ゴルフの神の思い召し」が信条。

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