子を持つ20代の母親が、何かの話の流れで5と7の合算が必要になったとき、指を使って勘定しようとしたので、足し算ができないことがばれたという話を聞いた。最近、足し算ができない大人が増えているという。昭和の時代にも、小学校4年生あたりまでなら、足し算をまったくできない子供がクラスに数人はいたかもしれないが、卒業するころには何とかできるようになっていたように思う。
だいたい足し算ができなければゴルフは楽しめない。ただ打つだけ、飛ばすだけなら野球でもやるしかない。いや、野球だって足し算ができなければ試合にならない。3ストライクになって、まだボックスに立っていたとすれば、そいつは次からベンチにはいないはずだ。
しかし、ゴルフはさらに甘くない。例えば、足し算のできない女性を花ちゃんとしよう。花ちゃんを乗せて、私はホームコースに向かう。高速道路を降りると、ゴルフ場まで12kmと書かれたサインがある。しばらくして、あと5kmと書かれたサイン・・・
-もう7km走ったんだ。もうすぐだね。
-あれっ、なんで7kmってわかるの。
-だって、最初12kmって書いてあって、今5kmだから・・・
あまりにくだらぬ自分の返答に私は思わず固まる。それでもかわいい花ちゃんと一緒だから、そんなことおじさんはすぐに忘れる。
スタート前にはクラブの確認がある。
-ウッド3本、アイアン10本、それにパターで14本。
私はなじみのキャディーに、いつものように明るくそう告げる。
-うわーっ、計算早っ。ヒロさんすごい。
-(何がすごいんだか。自分のクラブの本数ぐらい知ってらい)
と、私は馬鹿にされたような気分になる。
そして花ちゃんは
-え~と、わたしは、1、2、3・・・、う~んと
-お客さん、13本ですね。
苛立ちに語気を強めるキャディー。
5番のショートホール。その日は164ヤードとなっていたが、フォローの風が吹いている。ピンの位置は手前で、フロントから4ヤード。ここはかなりの打ち下ろしなので、いつも2番手下げる。頭の中では20ヤードほど短いイメージだ。私は150ヤードを6番か7番で打つので、通常は7番で打つことが多い。
-164ヤードだろ、打ち下ろしで20引いて、この風だから15ヤード足して、でもピン手前か。キャディーさん、ピンはセンターから何ヤード手前なの。
-きょうは7ヤードぐらいですね。
-すると7ヤード引きか・・・。いや、冬場は玉が飛ばないからそのままにしようか。
これだけの足し算引き算をするとなると、おそらく花ちゃんは気を失うに違いない。
ゴルフの醍醐味は、目の前の状況を吟味し、戦略を練りながらラウンドすることにある。ただボールを打ってカップに入れるだけなら、これほど愛好家が増えることはなかっただろう。
戦略を思い巡らすためには、足し算のみならず、重力の法則や慣性力学、あるいは植物学や気象学の素養なども必要かもしれない。もちろん、それは小難しいことではなく、どのようにこすったらどのように曲がるのか、どのような傾斜ではどのような打球になりやすいかなどを知ることにほかならない。
-そう考えると、もしかしたら花ちゃんには、ゴルフをしながら足し算を教えてあげられるかもしれないな。うん、いろいろなことを教えてあげよう。
いつものことながら、おじさんの妄想は至福のひとときをもたらす。しかし、人生はゴルフ以上に甘くない。
-あーた、花ちゃんてだれよ。
いつの間にか背後に迫っていた危険に、私は気づいていなかった。
廣川亜太郎(ひろかわ あたろう)
医療ジャーナリスト 1951年生まれ 横浜在住
全米生活25年、その間にゴルフ場支配人を経験、30代後半に北カルフォニア公認ハンデキャップ6
現在はハンディキャップ14。「スコアは、ゴルフの神の思い召し」が信条。
このブログ記事を参照しているブログ一覧: 頭脳プレーはゴルフか妄想か
このブログ記事に対するトラックバックURL: http://www.realgolf.jp/cgi-bin/mt/mt-tb.cgi/919