上交へつらわず下交おごらず

昨日、3カ月ぶりに頭を刈りに行った。昨年末から仕事に追われていたため、ずいぶんとむさ苦しい頭になっていた。行きつけの店には、ここ6年ほど私を担当にしている男がいる。

この男、腕はいいが話下手で、私とはどうも波長が合わない。それでも通っているのは、別の店を探すのが面倒だからだ。だいたい、自分の気に入った髪の長さやかたちを覚えてもらうまでには時間がかかる。それをまたゼロから始める根気はもう私にはない。

基本的には、私は本を持参し、整髪中は読書に没頭することにしている。それでも、何かの拍子にその男と言葉を交わすことになる。

-そういえば、オリンピック見ました ?
と彼。
-うん、見たよ。日本は情けないね。その点、韓国は立派だ。
-でも真央ちゃんよかったじゃないですか。
-まあ、仮にノーミスでもキム・ヨナには勝てなかっただろうから、善戦というところかな。
-僕、フィギュアスケート好きなんですよ。きれいじゃないですか。
-あっそう。私は、ジャッジが点数を決めるスポーツはどうも釈然としなくて、心から楽しめないね。
-でも、だれかが勝ったか負けたか決めなければいけないわけですから、仕方ないんじゃないですか。
こうして、だんだん話がもつれてくる。

ひと息間を置いて、私はまた口を開く
-だいたい、ジャンプだって以前は飛形点がもっと評価されていて、面白くなかったね。やっぱり一番遠くに飛んだ選手が勝たなくちゃつまらんでしょ。
-まあ、でも、そういう決まりですからね。
-そう、その決まりがつまらん。その点、カーリングってのはなかなか面白かったな。勝負がはっきりしている。
-でも、ほかの種目の選手もみんな頑張って練習しているわけですし...。
-(あのね~、そういう話じゃないでしょ)
-そういう意味では僕、パラリンピックの種目も、もっとテレビでやればいいなって思ってるんです。
-(はあ、そういうこと言いたかったのね)
俗人の私は、親子ほども年が違うこの青年の清廉な心にとてもついていけない。

あくまで俗人の私は、俗人の話を続ける。だいたい私が客なんだから。

-そもそも、勝ち負けってのは、一目瞭然に決まるほうが面白いんだな。だから、審判なんていなくても勝負がつくほうがいい。サッカーだって野球だって、審判の判定でいつももめるでしょ。その点、ゴルフはいいね。とにかく穴に早く入れたほうが勝ちなんだから。格好が悪かろうが、ボールが曲がろうが、水の中からだって、とにかく入れればいいんだな。まさにこれ、スポーツ競技の真髄といえるんじゃないかな。

-そうですかね~、いつだったか、石川遼のボールがOBだか何だかで、結構疑惑の判定があったって聞きましたけど。
私はこみ上げる憤りを生唾といっしょに飲み込むと、視線を窓外の街並木に移しながら静かに答えた。
-いや、そんなこともあったかな~~。

それから数日たって、国内の多くの中学や高校の卒業式で、「仰げば尊し」や「蛍の光」に代わり、流行のJ-POPが歌われたとの報道を目にした。私はそれに異論を唱えるでもなく、また賛同の拍手を送るわけでもない。これもまた、日本という国が自立した大人になるための過程であり、いわば思春期の反抗期と思えるからである。

考え方が異なり、気が合わないことはあっても、若者が大人に向かって自己主張できることは、それはそれでよいことなのかもしれない。少なくとも、かつて言われた大人と若者の断絶はなくなるに違いない。

廣川亜太郎(ひろかわ あたろう)
医療ジャーナリスト 1951年生まれ 横浜在住
全米生活25年、その間にゴルフ場支配人を経験、30代後半に北カルフォニア公認ハンデキャップ6
現在はハンディキャップ14。「スコアは、ゴルフの神の思い召し」が信条。

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