世間ではつぶやくことが流行っているようだ。もちろんそれは、ツイッターと呼ばれるインターネット上のつぶやきだが、今では1日6500万のつぶやき情報が地球上を駆け巡り、一国の首相まで毎日つぶやきを書き込むというから、おかしなものが流行ったものだ。新し物好きの私も早速試したが、他人のつぶやきのどこが面白いのかさっぱりわからず、3日でやめた。どうも私の感覚は人とずれているのかもしれない。
先日こんなこともあった。駄文を書くことを生業としている私は、出版社や広告代理店の編集者と行動することが多い。その中の1人の女性編集者が、○I○TE○DO-DSという携帯ゲーム機を見せながら
-私、今ここの中のバーチャルのマンションに住んでるんですけど、廣川さんも住んでくれませんか...
ときた。
(なんじゃ、そりゃ)
聞けば、自分の家族はもちろん、友人や知人をそのゲーム機の中の架空のマンションに住まわせていて、毎日その行動を眺めていると楽しいのだという。彼女いわく、住民にするためにはその人の名前や生年月日、血液型、趣味嗜好などのデータを入力しなくてはならないのだが、自分は知り合いが少ないので、私のデータを入力して住人に加えたいというのである。
トモダチコレクション、略してトモコレと彼女が呼ぶそのソフトは、かなり前に流行ったものだそうだが私はまったく知らなかった。そこで小さなゲーム機の画面を覗かせてもらうと、なるほど各部屋には彼女の知り合いと思しき輩が生息していて、それぞれにニックネームも付いていた。
-君の部屋も見せてよ
-いいですよ
-あれ、寝てるじゃないの。
-私ごろごろするの好きだから。
たしかに取材中の私の横で、よく平気で船を漕ぐ女だった。
住人になることを承諾した私は、面接試験のようにいろいろ質問されるはめになった。血液型は正直に答えたが、生年月日は10歳ごまかした。趣味は当然ゴルフ、好きな食べ物はラーメン、好きな色はマルーンといったら赤にされた。続いて、行動はややスロー、言葉はストレート、表情は豊か、考え方は慎重、少し変人、と入力された。答えを再確認すると、何だか支離滅裂の男のようにも思える。
-でさあ、この先、どうなるわけ。
-えっ、何がですか。
-だから、僕の分身の人生。
-さあ、どうなるかしら。ほかの住人とけんかしたり、恋に落ちたり。うちの母親なんか、私の勤め先の後輩と結婚したんですよ。あいつらが気が合うなんてわかんなかったなあ。
-えっ、結婚。
-結構、くっついたり離れたりするんですよ。それで、私に相談に来たりして。あっ、もちろんバーチャルな世界での出来事ですけど...
この架空の与太話に私はかなり混乱したが、自分もだれかとくっつくチャンスがあるのかと思うと、密かに高揚した。
2週間後、再び私は架空マンションを所有する彼女と出張取材に出る機会があった。
-ねえ、その後、その何だっけ、私の分身、そろそろ恋でもしてるかね。
-それが、孤立してますね。
-何それ。
-だって、鈍くさいのに言葉がきついし、おまけに変わり者なんで、皆んなに嫌われてます。
-ははは、やっぱりね...
表現が豊かな私は、壊れそうな心を軽い笑いでどうにかごまかした。そしてややスローに空を見上げながらつぶやいた...
-大丈夫。オレにはゴルフがあるじゃないか。
廣川亜太郎(ひろかわ あたろう)
医療ジャーナリスト 1951年生まれ 横浜在住
全米生活25年、その間にゴルフ場支配人を経験、30代後半に北カルフォニア公認ハンデキャップ6
現在はハンディキャップ14。「スコアは、ゴルフの神の思い召し」が信条。
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