食は広東にあり。特別行政区である香港では、広東料理が食卓に並び、広東語が話される。香港に隣接する深圳香港には北京、上海、四川、広東の中国四大料理をはじめ、あらゆる種類の中華料理店がある。さすがに本場には及ばないかもしれないが、はるばる遠くまでわざわざ足を運ばなくても、日本から近い香港でもそれなりにおいしいものが楽しめるのは事実だ。
美食を楽しむために多くの日本人観光客が香港を訪れるが、果たして香港の広東料理とはそれほどうまいものなのだろうか ? 香港在住歴の長い知人が「本当においしい店は香港に5軒くらいしかない」と断言していた。
実際に香港の有名店で食べても広州の老舗ほどおいしいとは思えない。もっと高級店に行けばおいしいものが食べられるのかもしれないが、庶民的な店では広州のほうが香港よりもうんとおいしい。
確かに「食は広東にあり」なのだが、もっと突きつめれば「食は広州にあり」なのである。広東の中心である広州に比べれば、広東の外国である香港はやはり数段劣る。しかし、香港がまずいというわけではなく、広州がずば抜けてうますぎるのである。
あるいは1997年に香港がイギリスから中国に返還されるまでは、うまい広東料理を出す店はもっと多かったのかもしれない。返還以降の香港しか知らないので、ビフォーアフターでどれほど変わったのかはわからない。しかし、返還直前には現地でちょっとしたパニックが起こっているというニュースがしばしば流れたことをよく覚えている。
統治権がイギリスから中国に移るのだから、香港人にしてみればその後の人生を左右する一大事だった。沈没する船を見捨てるネズミのように、多くの香港人がわらわらとイギリス連邦の国々であるカナダやオーストラリアに逃げ出したのだ。
結局、返還後も香港は特別行政区となり、香港人が恐れていたような激変はなかった。彼らが移住したカナダのバンクーバーやオーストラリアのシドニーでは、中華料理のレベルがぐっと上がったと聞いた。香港返還が腕のよい料理人を海外に流出させたのである。元イギリス領なのにびっくりするほど英語が通じないのは、英語の達者な香港人も返還時に移住してしまったせいなのかもしれない。
日本にも支店がある「糖朝」本店はいつも日本人観光客でいっぱいだ。日本では少々お高いので敷居が高いが、香港ではお手頃価格なのだ。「糖朝」でマンゴープリンの後は、老舗の牛乳屋「義順」名物の牛乳プリン。お次は「許留山」でツバメの巣とココナッツのデザートといくらでもはしごできる。香港のおすすめは、なんといっても甜品、つまりスイーツだろう。飲茶をたらふく食べた後でも、甘いものは別腹である。

いつも活気にあふれている香港の市場
片岡恭子(かたおか・きょうこ)
1968年、京都府生まれ。同志社大学文学研究科修士課程修了。同大学図書館司書として勤めた後、スペイン留学。さらに3年に渡って中南米を放浪。ベネズエラで不法労働中、テレビ番組をコーディネート。帰国後、NHK『地球ラジオ』にカリスマバックパッカーとして出演。下川裕治氏が編集長を務める旅行雑誌『格安航空券&ホテルガイド』で「バッカー列伝」を連載開始。その後まもなく日本語講師アシスタントとしてフィリピンに滞在したのがきっかけとなり、『地球の歩き方 フィリピン』を編集、執筆する。現在は雑誌記事やガイドブックなどを執筆するかたわら、阿佐ヶ谷LoftAで『旅人の夜』という旅イベントを主催している。2011年現在、44ヶ国を歴訪。世界遺産にも詳しく、2007年8月に放送されたNHK『プレムアム10』「プロが選ぶ世界遺産ベスト30」に出演し、フィリピンの棚田を紹介した。中南米、フィリピンを得意とする秘境者(ひきょうもの)として活躍中。
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