日本人が抱くヨーロッパの旅のイメージは、昼は美術館や古城などを巡り、夜は歴史と由緒のあるホテルに泊まって、地ワインに舌鼓を打つ、といったところだろうか。よく言えば文化的でハイソ、悪く言えば堅苦しくてお金がかかるのが、一般的なヨーロッパ旅の常である。
スペインのガリシア地方にあるサンティアゴ・デ・コンポステーラは、イスラエルのエルサレム、イタリアのローマ市内にあるバチカン市国と並ぶ、キリスト教三大巡礼地のひとつだ。サンティアゴ・デ・コンポステーラの旧市街は、そこに至るまでの巡礼道と同じく世界遺産である。
ルートはいろいろあるけれど、フランス側の国境の町、サン・ジャン・ピエ・ド・ポーからピレネー山脈を越えるフランスの道がもっとも一般的だ。その距離、764キロ。巡礼の手段は、徒歩か自転車。もしくは、中世と同様に馬に乗ってもかまわない。
聖ヤコブの遺骸が埋葬されている聖地に向かって、来る日も来る日も人力で進み続けるこのスペイン巡礼道。徒歩なら普通1ヶ月はかかり、体力と忍耐が要求される。
トレッキングとお遍路の醍醐味も加わった、北スペインの片田舎と世界遺産の街巡りの旅である。ヨーロッパ旅の「静」のイメージをくつがえす、まさに「動」の旅だ。
巡礼者はカトリックをはじめ、キリスト教信者が多い。敬虔な信者の中には、自宅から聖地まで歩く人も多い。スペイン国内からはもちろん、ドイツやイタリア、フランスから歩いてくる人もいる。
さらに中世を見習って、往路だけでなく、復路まで徒歩という猛者もいる。そのため、フランス側にも巡礼道があり、そちらも世界遺産に指定されている。
巡礼宿は1泊3~8ユーロ。宿代が決まっておらず、宿泊者からの寄付で運営している所も多い。スペインにはパラドールと呼ばれる、貴族の屋敷や修道院などを改修した国営ホテルがあるが宿泊費が高い。
しかし、巡礼者の証しである巡礼手帳があれば、修道院や神学校だった巡礼宿に安く泊まることができる。病気や怪我など特別な理由がない限り、連泊することはできないが、どんな宿でも30ユーロは下らないヨーロッパでこの値段はありがたい。
道中には中世さながらに巡礼者の足を洗ってくれる宿もある。そんな個性的な宿に泊まれるのも巡礼の楽しみのひとつだ。
巡礼道は公共交通機関がない麦畑の中の小さな村々も、牛追い祭りで有名なパンプローナやレオンなどの大都市も経由する。大聖堂のあるブルゴスは、米と豚の血のソーセージが名産だ。
名物を食べるのも旅の醍醐味。フランス人巡礼者が多いので、道沿いにはミシュランに掲載されているレストランがたくさんある。巡礼道での食べ歩きもよいものだ。
今年2010年は聖年とされ、この年に巡礼した者はすべての罪が赦されると言われている。信者でなくても大丈夫。スペイン語も英語も話せなくても心配はいらない。
巡礼者も地元の人々もみな優しい。ヨーロッパをワイルドに歩いて旅してみてはいかがだろうか。

野を越え山を越え、聖地に向かう巡礼者たち
片岡恭子(かたおか・きょうこ)
1968年、京都府生まれ。同志社大学文学研究科修士課程修了。同大学図書館司書として勤めた後、スペイン留学。さらに3年に渡って中南米を放浪。ベネズエラで不法労働中、テレビ番組をコーディネート。帰国後、NHK『地球ラジオ』にカリスマバックパッカーとして出演。下川裕治氏が編集長を務める旅行雑誌『格安航空券&ホテルガイド』で「バッカー列伝」を連載開始。その後まもなく日本語講師アシスタントとしてフィリピンに滞在したのがきっかけとなり、『地球の歩き方 フィリピン』を編集、執筆する。現在は雑誌記事やガイドブックなどを執筆するかたわら、阿佐ヶ谷LoftAで『旅人の夜』という旅イベントを主催している。2011年現在、44ヶ国を歴訪。世界遺産にも詳しく、2007年8月に放送されたNHK『プレムアム10』「プロが選ぶ世界遺産ベスト30」に出演し、フィリピンの棚田を紹介した。中南米、フィリピンを得意とする秘境者(ひきょうもの)として活躍中。
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