電気のないところは星空がきれいだ。電気がないなら、ガスも水道もない。もちろん電話もインターネットもない。満天の星はライフラインと引き替えだ。そんな辺鄙なところの住人は、日の出とともに起き、日の入りとともに寝る健康的な生活を送っている。
ペルーのクスコを首都として栄えたインカ帝国の人々は、星のない暗闇の形を身の回りの動物に見立てて星座としていたほどだ。星と星をつなぐのではなく、星の間の闇に形を見る、ギリシア神話の星座とはまさに逆の発想。それほどまでに星が多かったのだ。
もちろんインカの生活には、水路やインカ道はあってもライフラインはなかった。同じようにインフラのない南の島よりも、標高が高くて気温が低い場所のほうが星はきれいに見える。
これまでいろんなところを訪れたが、一番の星空はコロンビアのアンデス山中だった。星が多すぎて目がちかちかして、ずっと見ていると吐き気をもよおすほどだった。星の間を人工衛星がぶんぶん行き交っているのも見えた。夜空は見事なまでに星で埋め尽くされ、暗闇はほとんどないに等しかった。
「インカ式の星座を発想する夜空はこれなのだ」といっぺんに納得した。いつまでも見上げていたかったが、首は痛くなるし、目はちかちかするし、気持ちが悪い。なにより冷える。寒さが足を伝って、地面から上がってくる。
村で唯一の民宿のベッドに戻ると男に話しかけられた。宿には大部屋がひとつしかなく、ベッドがずらっと並んでいた。好きなところを選べたので、入り口に近い窓際にした。先客である彼は奥にいた。
昼間はずっと出かけていて、ベッドの上には彼の荷物だけが残されていた。だから、彼に会うのはそれが初めてだった。彼は私には見慣れたスペイン系のコロンビア人だったが、彼にとって私は人生で初めて出会う外国人だった。
彼はこんな山奥の村まで先住民アルワコ族の編み物のバッグを買いつけに来ていた。そういえば町で観光客のみやげものとして売られているのを見かけた、染めていない天然の風合いのバッグ。翌朝、別れ際に彼は「君は僕が会った初めての外国人だから」と言って、羊のにおいのするバッグをひとつくれた。
村の住人、アルワコの人々は縄文時代のように貫頭衣を着て、一人ひとつずつ、その編み物のバッグを提げていた。学校に行ったことのない彼らは、公用語であるスペイン語を話せない。村でスペイン語を唯一話せる、スペイン系コロンビア人と結婚している女性が通訳してくれた。
彼女の家にできあがった編み物を届けに来ていたアルワコの若い母親は、「私をどこか遠くの知らない場所に持っていくのですね」とデジタルカメラに写った自分の姿を、悲しそうな顔をしてじっと見ていた。
降るような星の下でゆっくりと時間が流れていくアルワコの村。未開と呼ばれようとも野蛮と蔑まれようとも、ストレスまみれであくせく生きるよりもよっぽどいい。南米大陸の先住民である彼女も、日本人である私も、同じモンゴロイドである。

1.茅葺き屋根の家が建っている 2.森を歩く親子 3.アルワコ族の手編みのバッグ 4.カラフルなビーズがおしゃれなアルワコの女性
片岡恭子(かたおか・きょうこ)
1968年、京都府生まれ。同志社大学文学研究科修士課程修了。同大学図書館司書として勤めた後、スペイン留学。さらに3年に渡って中南米を放浪。ベネズエラで不法労働中、テレビ番組をコーディネート。帰国後、NHK『地球ラジオ』にカリスマバックパッカーとして出演。下川裕治氏が編集長を務める旅行雑誌『格安航空券&ホテルガイド』で「バッカー列伝」を連載開始。その後まもなく日本語講師アシスタントとしてフィリピンに滞在したのがきっかけとなり、『地球の歩き方 フィリピン』を編集、執筆する。現在は雑誌記事やガイドブックなどを執筆するかたわら、阿佐ヶ谷LoftAで『旅人の夜』という旅イベントを主催している。2011年現在、44ヶ国を歴訪。世界遺産にも詳しく、2007年8月に放送されたNHK『プレムアム10』「プロが選ぶ世界遺産ベスト30」に出演し、フィリピンの棚田を紹介した。中南米、フィリピンを得意とする秘境者(ひきょうもの)として活躍中。
ブログ/秘境散歩
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