NHKが10年に渡る交渉の末、撮影に成功したドキュメンタリーが昨年4月に放送された。テレビ番組の海外物の常として、裏では賄賂だとか援助だとかいろいろあったのかもしれないが、それにしてもよく撮ったものだ。撮影されたのはブラジルのヤノマミ族だった。ヤノマミと言えば、どうもブラジルにだけ住んでいるかのようなイメージがあるが、実はヤノマミ人口はブラジルよりもベネズエラのほうが多い。
ヤノマミ族に会いにベネズエラの奥地まで行った。道なき道を半日かけてランクルで走り、陸路で行けるところまで行く。その後は、7時間もボートで川を遡る。公共交通機関が一切ないため、ツアーで行ったのだが、ラテンアメリカのなんたるかがわかっていない先進国のお客からは必ず苦情が来るといういわくつき。とにかく日本では到底実現できないレベルの過酷さと要領の悪さなのだ。
しかし、はるばる行った甲斐はあった。あれはまさに桃源郷だった。
川辺のビーチは赤い夕日に照らされ、たくましい先住民の若者たちが男も女も一緒にサッカーをしていた。彼らはすでに服を着ていたし、追っているのもごく普通のサッカーボールだったが、そんなことがどうでもよくなるほど美しい光景だった。彼らの周りを無数の蝶々がひらひらと舞っている。少し離れたところから頬杖をついて見守っているのはなぜか猿。彼らのシンボルは、考える人ならぬ考える猿なのだ。木彫りの大猿が鎮座ましましている浜辺には、人工的なゴミはひとつも落ちていない。川の水も生活排水で汚れているような感じは少しもなかった。
目的地エル・プラジョンには、ジェクアナ族とヤノマミ族が住んでいる。ヤノマミが川側、ジェクアナが山側だ。もっとも見た目では彼らの区別はつかない。どうも学校はないようだったが、スペイン語は理解している。話すのはかなりおぼつかないが、こちらが言っていることはほとんどわかっている。
ノートの切れっぱしにカタカナでヤノマミの若者たちの名前を書いてあげたら、とても面白がっていた。おそらく日本がどこだかも定かではないだろう。彼らの名前はすでにスペインのそれである。ジャングルで獲れるものでなにが一番うまいかと訊ねたら、にいちゃんは間髪入れずにラパと答えた。ラパとはウサギのようなネズミのような小動物だ。なんの迷いもなく即答するとは、さぞかしうまいのだろう。うーん、食べてみたい。
ヤノマミのにいちゃんたちは朝夕釣りをする。毎度、短時間ででかいモロコトという淡泊な白身魚やナマズを手に悠々と引き上げていく。大ナマズ1匹で10人はおなかがいっぱいになる。冷蔵庫どころか電気もないのだから、獲ったものはすぐに分けて食べる。
みんながおなかいっぱいになるだけの食料を調達したら、その日の仕事は終わり。なんて素晴らしい。家庭や友達も顧みず、一日中働くために人は生きているんじゃない。原始共産制は理想的な社会のあり方だ。今もそれを日々実践しているヤノマミ族は憧れの人々なのだ。

1. エル・プラジョンの考える猿
2. ジェクアナ族の子供たち
3. 釣りが得意なヤノマミ族
4. 総出で屋根葺き作業中
片岡恭子(かたおか・きょうこ)
1968年、京都府生まれ。同志社大学文学研究科修士課程修了。同大学図書館司書として勤めた後、スペイン留学。さらに3年に渡って中南米を放浪。ベネズエラで不法労働中、テレビ番組をコーディネート。帰国後、NHK『地球ラジオ』にカリスマバックパッカーとして出演。下川裕治氏が編集長を務める旅行雑誌『格安航空券&ホテルガイド』で「バッカー列伝」を連載開始。その後まもなく日本語講師アシスタントとしてフィリピンに滞在したのがきっかけとなり、『地球の歩き方 フィリピン』を編集、執筆する。現在は雑誌記事やガイドブックなどを執筆するかたわら、阿佐ヶ谷LoftAで『旅人の夜』という旅イベントを主催している。2011年現在、44ヶ国を歴訪。世界遺産にも詳しく、2007年8月に放送されたNHK『プレムアム10』「プロが選ぶ世界遺産ベスト30」に出演し、フィリピンの棚田を紹介した。中南米、フィリピンを得意とする秘境者(ひきょうもの)として活躍中。
ブログ/秘境散歩
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