2010年ワールドカップは、無敵艦隊スペインの初優勝で幕を閉じた。1930年にワールドカップが始まって以来、開催国であった年さえもスペインは優勝したことがなかった。リーガ・エスパニョーラがプロサッカーリーグの最高峰であるにも関わらず、これまでスペインがワールドカップで優勝できなかったのには理由がある。
スペイン人は海外旅行をあまりしない。他のEU諸国にさえもほとんど行かない。17の自治州と12の民族から成るスペインでは、隣の州に出かけるだけでも自国にいながらにして外国気分が味わえるからだ。もちろん言語も異なる。国の公用語はスペイン語だが、地方公用語や地域の固有言語がわんさとある。そのほとんどがラテン語起源であるが、スペイン北部のバスク地方で話されているバスク語は、今もルーツがわかっていない。
特にバスク地方とバルセロナのあるカタルーニャ地方は常にスペインから独立したがっているし、その他の地域でも愛国心よりも郷土愛が勝る。つまり、スペインは一国としてまとまっているのが不思議なほどの他民族国家なのである。リーガ・エスパニョーラに参加しているクラブチームは、地域と密着し、郷土愛に支えられているがゆえに強い。しかし、出身がばらばらのスペイン選抜チームはなにより愛国心とまとまりに欠けている。
なんの屈託もなくスペインチームを応援していたのは、首都のあるマドリッド州とせいぜいその周辺のカスティーリャ・イ・レオン州とカスティーリャ・ラ・マンチャ州の人々ぐらいなもんだろう。中世にはカスティーリャ王国だった地域である。独立を目指すバスクとカタルーニャの人々は複雑な思いで地元クラブチームに所属する選手たちの活躍を見ていたに違いない。
ところで、タコはスペイン語でプルポという。ツイッターを検索してみるとプルポについてつぶやいているスペイン語スピーカーの多いこと! もちろんあの8戦すべての勝敗を当てた予言タコについてだ。タコはスペイン人の大好物。しかもかなりの量を世界最大のタコ消費国である日本に輸出しているため、タコが獲れる沿岸地域では日本語でタコと言ってもちゃんと通じる。スペインではたたいて柔らかくしてから大鍋で茹でたタコをはさみで一口大に切り、岩塩とオリーブオイルをかけて食べる。素材のよさが引き立つシンプルな料理法である。件のタコについては「偉業を称えてスペインの海に放流すべき」という意見もあるようだが、ドイツの水族館で静かに余生を送るほうが食べられずにすみそうだ。
国際的格付け機関ムーディーズが昨年末に発表した悲惨指数ランキングで第1位になったスペイン。悲惨指数は財政赤字と失業率から算出されている。今年に入って財政破綻したギリシャでも5位なのだから、スペインはかなり悲惨なのである。失業率は20パーセントを超えている。ワールドカップ優勝による経済効果がスペインを救えるかどうか、タコにぜひ訊いてみたいところだ。

日本人と同じくスペイン人もタコが大好物
片岡恭子(かたおか・きょうこ)
1968年、京都府生まれ。同志社大学文学研究科修士課程修了。同大学図書館司書として勤めた後、スペイン留学。さらに3年に渡って中南米を放浪。ベネズエラで不法労働中、テレビ番組をコーディネート。帰国後、NHK『地球ラジオ』にカリスマバックパッカーとして出演。下川裕治氏が編集長を務める旅行雑誌『格安航空券&ホテルガイド』で「バッカー列伝」を連載開始。その後まもなく日本語講師アシスタントとしてフィリピンに滞在したのがきっかけとなり、『地球の歩き方 フィリピン』を編集、執筆する。現在は雑誌記事やガイドブックなどを執筆するかたわら、阿佐ヶ谷LoftAで『旅人の夜』という旅イベントを主催している。2011年現在、44ヶ国を歴訪。世界遺産にも詳しく、2007年8月に放送されたNHK『プレムアム10』「プロが選ぶ世界遺産ベスト30」に出演し、フィリピンの棚田を紹介した。中南米、フィリピンを得意とする秘境者(ひきょうもの)として活躍中。
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